●2011年5月19日は、
一年がかりで作りあげた初の著作集『拡張するファッション』の見本誌が届き、
特設サイトが立ち上がり、刊行記念イベントも告知されたという、
3つの出来事が集中した、記念すべき日になりました。

特設サイトはこちら
○一方で私の個人的な仕事のなかでは、2010 年の年末から今年にかけて、
いくつかの新しい執筆プロジェクトがありました。
それは一つ一つがとても貴重なもので、
自分にとってもとりわけ重要な執筆の機会になりました。
その場をくださったそれぞれの方にお礼を申し上げたく、
また媒体諸氏にも感謝を抱きつつ、最近の執筆を振り返ります。


2010年12月
クリスマスごろの某日〜
ホンマタカシさんから突然メールが届く。
「『美術手帖』4月号の特集で、林さんに文章書いてもらいたいんですけど」
知り合って15年以上20年未満のホンマさんから、
初めて聞いた言葉に驚きつつ、「それは光栄です!」と返す。
『美術手帖』から巻頭特集を打診されたホンマさんの構想は、
金沢21世紀美術館で年明けから始まろうとしていた
『ニュー・ドキュメンタリー』展にちなんで、
「ニュー・ドキュメンタリー展のドキュメンタリー」を誌上に展開すること、だった。
執筆に際してはもちろん、取材はするけれど、
執筆ではあえてホンマさんの言葉を直接的に拾わず、私が「見た」、
そして「見てきた」ホンマさんを、ボリュームのある文章に表現すること。
それがミッションだった。
特集は巻頭の約80ページ。そこで私はお正月明けの早々に、雪の金沢へ飛んだ。
ただでさえ資料でいっぱいな私の室内は、
年末以来これまで長く一緒に仕事をしてきたホンマさんに関係するもので、
いつのまにか自宅に集まってきていた過去の資料から最新のアサカメ対談のコピーまで、
あらゆる紙が散在するアーカイブ空間となった。
そしてなんと金沢21世紀美術館には、
2月に行なわれた阿部海太郎さんとのコンサートまで、2度も足を運ぶという幸運に恵まれた。

「絵巻物みたいに、上のほうには会場写真がずうっと流れていて、下には上の写真と関連なく、
林さんの原稿がずうっと流れる。僕も取材をうけるけどその言葉はいいから(笑)
林さんは、これまでの15年間をぐぐぐーっと記憶巻き戻して:笑」
というホンマさんの発想にインスピレーションを得つつ、
編集の藤田さんや高橋さんと相談しながら誌面が作りあげられた。


2011年1月
誕生日付近の某日〜
服部一成さんから、携帯に電話を頂く。
突然だったので驚いたけれど、その内容にまた、驚いた。
「こんど僕の作品集が出ることになって、ごく少数の人に原稿をお願いしているんですが、
林さんには、僕のデザインどうこうということじゃないことで、文章を書いてほしいと思うんです」。
服部さんとのつながりも、ホンマさんとのつながりのように、
あいだにいつもお仕事があって、そしてかれこれ、10年になる。
お仕事するたびに思う。言葉数の少ない服部さんがぽつりぽつりと発する一言に、
意味がないものはまったくみつからない。
『here and there』が一冊できるまでに、服部さんの口から出た言葉の数を数えたら、
数それ自体は、本当に少なくてびっくりするくらいだろう。
でもいつも、ちゃんと深いコミュニケーションができている。
だから服部さんの口から出る言葉は、注意深く聞くし、聞き逃せないものばかりである。

確かに服部さんのグラフィックデザインについて私が云々するのは、
これまでの経験や学習からいっても、筋違いな気がする。
もともと私は、たとえばファッションに対しても、
デザインとして学んだこともなければ、論じたり文章を書いているわけではないのだ。
その作家のもつ世界観とか、
その発表の場に漂う空気とかに吸い寄せられるようにして近づいていく。
それでは何を私は書けるのだろうといろいろ考えていたら、
考えているうちにいつのまにか原稿が書けてしまっていた。
すぐに服部さんに読んでもらって、意図にそうものかどうかお尋ねし、
「とても面白いです」とOKを有難く頂いてから、締め切りの日までしばらくの間寝かせた。
そして締め切りの日にぱちっと目が覚めて、推敲し入校した。